【円】
全身で鳥肌が立った。
虹庵の、火箸の一撃──
──本気だった。
本気の殺意でもって留玖の喉を狙った一撃。
その──殺気と共に達人が繰り出した攻撃を、
まごう方なき虹庵の本気の一撃を、
親父殿とも並ぶと評された鏡神流免許皆伝者の一撃を、
留玖は止めた。
しかも、たまたまそばにあった煙管で。
愕然としながら俺は思い知った。
留玖は──既にそんな場所にいる。
「あらゆる武器を操る技術を磨くという宮川殿の持論は面白い。
だが、今のように手元に武器がなければどうだ?
『刀のみが武器にあらず』という宮川殿の考えは同感だ。
しかし武芸者とは──武士とは、『武器に頼る』のではなく、
いついかなる時、例え『目の前に一本の箸しかない』状況でも
対処できる者であって然るべきとは思わないか?」
虹庵はそう語って、手にした火箸を再び火鉢の灰の中に突き刺した。
「あ、ごめんなさい、これ……」
留玖が何でもないことのように言って、遊水に煙管を返した。
いやあ、びっくりしましたぜ、とおどけた調子で遊水が煙管を受け取る。
一瞬の戦慄が去ったその場を虹庵は見回して、
棒立ちになっている俺と、
あの刹那で、俺を庇うように虹庵との間に立っていた宗助とを見比べた。



