恋口の切りかた

「そしてこういった暗示、錯覚には、かけるにも解くにも手順というものがある。
俺はあのとき己の幻術の知識から、一時的に強引な解き方をしましたが──」

「正式な解術はかけた者にしかできない、ということか」

虹庵が言って、宗助が頷いた。
円士郎が面白くなさそうな顔になる。

「ふうん、見た目はもう普通に動けるみたいなのにね」

私には、円士郎の姿は特に普段と変わったところもない気がするけれど。

「今の円士郎様は俺が体の動きを解放しただけ、
依然、この者によってお心の深部を狂わされたまま──非常に危うい状態です」

円士郎にごおぐるを殴られたせいで目の周りにアザを作ったまま、何だか笑える顔で昏睡している鬼之介に、
宗助は鋭い視線を向けていた。



虹庵は、鬼之助が気がついたら呼ぶようにと言って、
宗助と一緒に部屋を出ていってしまい、


私は部屋の中に、円士郎と二人きりで取り残された。


鬼之助が寝かされている部屋は、私が昔円士郎に救われて屋敷に運び込まれた時に寝ていた部屋で──


意識が戻るのを待っている間、

火鉢の上で白い湯気を立てている鉄瓶を眺めながら、私はまたぼんやり昔のことを思い出していた。

自分でも無意識に、隣に座った円士郎の横顔を見つめていたみたいで、

そうしたら急に円士郎が私のほうを見て、
円士郎と目が合って、

私はどきん、としてしまって──


気づかれるんじゃないかと怖くなった。