恋口の切りかた

「それに加えて、とにかく奴は素性が知れねえ。
元は旅芸人でどこぞから流れてきたとも聞きやしたが──

あんな面相でやしょ? 普通ならもっと人の噂になってても良さそうだ。

なのに──円の旦那、旦那ァここいらじゃ長いが、
旦那もあんな奴の事ァ、最近まで知らなかったんじゃねえですかィ?」


確かに。

言われて俺は、あんな目立つ見た目にも関わらず、遊水のことをこれまで全く知らなかったことに驚く。


「奴ァ、操り屋だ。おそらく自分のことに関しても、人の口に上らねえように何か細工をしてるんでしょうぜ」


銀治郎はそう言って、「実はね、まだあるんでさ」と声をやや潜めた。


「うちの若ェもんが何度かね、遊水の奴と揉めてるんでさ」

「喧嘩か?」

「まあそんなもんです。
遊水の奴ァ、あんな感じだから、普段はのらりくらりとうまくかわして、大事にもならなかったんでやすがね」


あるとき、どうにも収拾がつかなくなって、若い子分の一人が遊水を殺そうとしたのだそうだ。


「あくる朝、その子分は口から血を流して死んでるのが見つかりやした。
とくに怪我らしい怪我もしてねえ──

ありゃァ毒か何かも使いやがるようです」


その子分の死因については──

留玖から聞いた話で、今の俺は毒などではないことを知っている。