恋口の切りかた

いやまあ、

少なくともこの時の俺にとっては
そうだった。


留玖が弱っているのをいいことにベタベタするのもどうかと思ったが、

俺は留玖を放したくなくて、
彼女を抱き寄せたまま遊水と会った。


こんな留玖を置いては行けない。


遊水に、

今夜は辻斬りを追うのはやめだ、
などと調子の良いことを言った俺は、


少なからぬ衝撃を受ける話を聞かされた。


辻斬り魔が果たし状を送りつけた今晩の相手というのが──


「今宵の相手は銀治郎親分さんの所の、久本左内先生なんだがな」

遊水はそう告げたのだ。


久本左内は、
たびたび衝突を繰り返していて、
俺がそのうち決着をつけてやろうと考えていた因縁の相手だ。


俺は迷った。


黙って辻斬り魔にくれてやるのか?

いや──そういう迷いとも何か違う。


遊水が帰った後も、俺は留玖の言葉にも上の空で考え続けて、

気づいた。


確かに左内とは因縁もあったが、俺は別に果たし合いで奴のことを殺したいワケではなかった。

俺の迷いは──この事件で初めて、
見知った者、身近な者の命が
危なくなるかもしれない、ということに対する動揺だった。