恋口の切りかた

「遊郭かよ!」


豪華絢爛な座敷に通されて、俺は毒づいた。


「おや、お気に召しませんか?」

隣では慣れた様子でくつろぎながら、遊水が涼しい顔で言った。


「いや、つうか……こんなとこ来て払う金あんのかよ!?」


遊水が迷わず入って行ったのは、かなり店構えの良い高そうな外観の店で、
この座敷の内装と言い、
広さと言い、
目の前に運ばれてきた料理の中身と言い、

どう考えても思い切りぼったくられそうだった。

実際、あとで聞いた話によると城下の色町で一番高い店だったらしい。


「ご心配なさらずとも、今回は俺のオゴリです」

遊水は事も無げにそう言った。

俺の財布の中身ではどう考えても、二人分どころか一人分すら払えそうにない気がしたが──


金魚屋というのは、やはり相当儲かる仕事ということだろうか。

確かに、金持ち相手の商売だし、
あんな小さな魚一匹で金子が三、四枚は軽く飛んでいく(*)のだ。

考えてみれば、女を買うよりも魚一匹のほうが高いかもしれない。


金払いの良い遊水はどうもこの店では上客の扱いで、

しかも、この不思議な美貌、
しかも、二十歳そこそこの若い男、
しかもしかも、江戸仕込みの垢抜けた粋なナリと立ち居振る舞いだ。

店の遊女たちにも当然の如くに人気があった。


「なんつうか、親父とかが来てそうな店だな」

とりあえず、横に座った遊女の酌を受けながら、
俺はあの女好きな親父殿を思い浮かべた。

遊水は頷いて、

「ああ、晴蔵様も何度かこちらの店で接待させて戴きましたね」

「って来てんのかよッ!」

親父ィイイイ──!

俺は胸の中で絶叫する。


まあ、血は争えないということだろう。



(*金子が三、四枚は軽く飛んでいく:化政文化期に金魚の値段が下落するより以前であるため、この頃の彼らの城下での金魚の値段は現在の金額に直すと、一匹およそ三十万~四十万円という設定。
実際の記録によると、元禄の頃まで遡れば一匹が五十万~百万円の超高級ペット。
小判一枚は現在の金額で約十万円前後)