「エン……」

私は、

昼間、円士郎が私に、そばにいると言ってくれたのを思い出して、

それから──


稽古着姿ではなく、

昼間と同じ「部屋着」で
あたかも「慌てて飛び出しきたかのような」格好で──

──円士郎がこの場に現れたのだ、ということに思い至って、


ひょっとして、と思った。


ひょっとして、円士郎は……



「私も、理解できないよ」

忍に向かって私は言った。

「あなたは、悲しむ人がいないように悪い噂のある人間を狙ったって──
それで、都築様は
そのうちエンも狙う予定だったって言ったけど──

私は、エンが殺されたら悲しむよ。
私だけじゃない、父上や母上、平司だって……!

都築様がこうやって殺されたことを知ったら、やっぱり母君も悲しむんじゃないの?

見ず知らずの人を殺して、本当に悲しむ人がいないかなんて、わかるわけないでしょう?
だからこんなこと……どうしても理解できない」


あまりに理不尽に、

突然、盗賊に殺された私の小さな弟の姿を
私はどうしても忘れられなかった。


震える両手をギュッと握り締めると、
「留玖」と言って、円士郎が片手で私の肩をそっと抱き寄せてくれた。