また……辻斬り──。

胸の奥に、何か黒くて嫌なものがじわっと広がった。


今度はどこどこの御武家様の三男坊で、これがまた腕が立つと評判の方で……。

庭に入ってきた遊水が説明をしているのも何だか耳に入ってこなくて、
私は庭に面した廊下の軒下に立ち尽くしてしまって、

「こりゃあ、本当に余程剣に秀でた者の仕業でしょうな」

そこだけ、妙にハッキリ耳に残った。


「何の話をしてる!?」

背後から怒りの滲んだ声がして、私はびくりと肩を震わせて振り返った。

廊下の奥から出てきた円士郎が、険しい表情で遊水を睨んだ。

「留玖に何を──」

「ああ、辻斬りの事件についてお話をしていたところで」

遊水が恭しく頭を垂れた。

「てめえ……!」

円士郎は何事かを言いかけ──私をチラリと見て、黙った。

なに……?
何なの、円士郎──。


円士郎はチッと小さく舌打ちして、それから傘を差した遊水を眺めた。

「どうせこんな天気だ。今日は商売にならねーだろ。つき合えよ」

円士郎は遊水にそんなことを言って、遊水が黙ったまま頷いた。


そのまま、町に行ってくると言って円士郎は遊水と一緒に出かけてしまった。