恋口の切りかた

禿頭の店の主人が、俺と遊水の座っている長板の間に、俺の分の酒と杯を置いていった。

「まずは一献」と言って、遊水がちろりを差し出して来たので、俺は素直に受けることにする。


杯に酒を注ぐ仕草もどこか洗練された印象があって、

「お前、ひょっとして江戸の出か?」

俺は思わず目の前の男に尋(たず)ねた。


「ああ、いえいえ。出は別ですが、江戸へは仕事でよく行きますかね」

「って金魚を売りにか?」

「さすがに江戸は、こちらよりも良く売れるもので」


すました顔で言って酒を口に運ぶ男を見て、
どうりで……と俺は納得した。


──浮き世慣れした振る舞いや垢抜けたところがあるワケだ。



「円士郎様は──あれですね。なかなか傾(かぶ)いていらっしゃる」

遊水は俺の格好を見て楽しそうに言った。


ちなみに今の俺は、遊び着の着流し姿だ。



俺は一息に杯を空けて(*)、

「で?」と、目の前の白面をにらみつける。


「俺に何の用だ?」



(*飲酒について:この時点の円士郎は数えで十七才であり、現代で言えば十五才だが、江戸時代は元服を迎えたこの年齢の者には飲酒が認められていた。しかし現代では未成年者飲酒禁止法により二十歳未満の飲酒は禁止されているので注意)