恋口の切りかた

俺は物売りに視線を移し──、ちょっと驚く。



その若い男は、いわゆる棒手振(ぼてふり)と呼ばれる物売りの格好をしていて、
留玖とその男の足下には、天秤棒と桶が二つ置かれている。

桶の中には水が張ってあり、小さな赤い魚が泳いでいた。


──金魚か。

これはこれでまためずらしいもんだが。



それよりもこの棒手振。


金色を帯びて輝く真っ白な髪に白い肌、透き通った緑の瞳。



こいつ──


「異人か?」

棒手振男の容貌に、俺はつぶやいた。


「イジン?」

留玖がびっくりした様子で再び男を見る。

一つに束ねたつややかな黒髪が、稽古着の肩でさらさらと音を立てた。


「イジン……異人って、もっと怖い顔をしてるって聞いたよ?」


棒手振男は、廊下から見下ろす俺にうやうやしく頭を下げた。


「結城円士郎様とお見受けします。

私は異人ではございませんが、母が紅毛(*)の者でして」


紅毛人(*)との混血……?

これは──文句なしにめずらしいぞ。


「その血を濃く引いておりますがゆえに、このような面相ですが」

そう言って、男はクスクスと可笑(おか)しそうに笑った。


「狐狸の類ではありません」



(*紅毛、紅毛人:南ヨーロッパ系のスペイン・ポルトガルといった『南蛮』に対して、北欧系のイギリス・オランダ等の江戸時代の呼び方。主にオランダを指す用語となっていくが、この物売りはトゥーヘアードに緑眼のハーフなので、アイルランド系かノルウェー、フィンランドといった、もっと北のほうの血を引いているのかもしれない)