こんな人間なんているのかな……?

昼間から夢でも見ているのだろうか。


「めずらしいですか?」

私があまりにも長いこと対岸を見つめていたからか、物売りの青年は微笑した。

「……ええ、はい。すみせん」

「謝ることはないですよ。しかしお堀ごしではね。おじゃましてよろしければ、もっと間近でご覧いただけますよ」

「え?」


きょとん、とする私に向かって金色の髪の若者は、



「金魚、そちらからではよく見えないでしょう」

と言った。



──ああ、そっか。金魚か。


そう言えばコイよりも小さな赤い魚がいると聞いたことがある。
フナの赤いのだとか。

地面に置かれた水の入った桶の中には、確かに赤い魚がたくさん泳いでいた。


私がめずらしいと思ったのは、物売りさんのほうだったんだけれど……。


「そちらに回って、庭に入ってきてください」

私は夢のように美しい若者にそう言って、自分も庭のほうに向かった。