恋口の切りかた

平司たちには母屋から出ないようにと伝わっている。

人払いをした離れにはこれで、
俺と留玖とりつ殿と堀口の死体、そして親父殿に覆面家老しかいなくなった。


「こちらは、結城殿の御内儀(*)かな?」

「いえ、わっちは晴蔵様にお世話になっている身」

「ご側室(*)であらせられるか。これはなんと──美しい」


ぶきみな覆面家老は頭巾の奥の目で親父殿を見やった。

「さすが結城殿、うらやましいかぎりですな」

「何を申されるやら。そちらこそ、江戸からつれ帰った美女を大勢かこわれておると聞いたが。ここでは悪いクセをお出しにならぬよう、たのみますぞ」

親父殿が鼻を鳴らしてあきれたようにそう言い、「ふふ、こいつは手きびしいですな」と、伊羽が覆面の下で低いふくみ笑いをもらした。



俺はカナリ冷や汗モノのこの状況にも、親父殿にあせりは見えない。

さすがに緊迫した空気をただよわせてはいるものの、いつもどおり泰然(たいぜん)とかまえている。


「説明を聞こうか」

親父殿がりつ殿に言って、りつ殿がうなずいた。




(*御内儀:奥方のこと)

(*側室:身分の高い人が屋敷内の部屋に置いている妾のこと。この藩の先法御三家の当主は全員、朝廷から官位をもらっている身分なので、伊羽は敬ってこういう言い方をした)