恋口の切りかた

円士郎の守り役には、先君から引き続き父上が就くのかと思っていたら、それこそ権力の集中を防ぐという目的で、

なんと菊田水右衛門が就いた。

父上が守り役になっていれば、円士郎のお目付役としては申し分なかったのだろうけれど、


どうも面白いことが好きな菊田水右衛門と円士郎とは、妙に馬が合うようで、

以前、私と桜を見る約束を果たすために城を抜け出した時なども、菊田水右衛門が協力してくれていたらしくて、

円士郎の突飛な行動に振り回されている青文にとっては、頭痛の種になったようだった。


円士郎は殿様になった後もお城を抜け出しては町に繰り出して、銀治郎親分さんたちと会ったり、帯刀や隼人のいる盗賊改めの役宅に顔を出したりしていた。

家臣の人たちには申し訳ないけれど、
実は私も円士郎に誘われて、一緒に時々こっそりお城を抜け出して、相変わらずの人気役者である与一の舞台を見るために鈴乃森座に行ったり、お忍びで二人で町を歩いたりしている。


守り役の任からは降りたけれど、

円士郎の剣術指南役は当然、父上の他にはいなくて、

武者修行の旅から戻った私と円士郎は、毎日お城で父上から直接剣の稽古をつけてもらっていた。


「まさか円士郎と留玖がそろって城に入るとはな」

父上は顎をごりごりとこすりながら、

「ふむ。もしもお前たちのどちらかが晴蔵の名を継げば、いっそ城中に道場を置くか」

そんなことを言って笑っていて──



そして、年が明け、

私は二十一、円士郎は二十二になって、


再び私の好きな花が舞う季節になった三月のある日、


城の稽古場には大勢の人間が集まって、私と円士郎は木刀を握ってその中心にいた。