恋口の切りかた

円士郎の家来になるということを約束していた鬼之介は、
彼が殿様になったことで、陪臣ではなく砂倉家の家臣に取り立てられた。

あの長屋は引き払い組屋敷に移って、

苗字も本家の宮川から中津へと改めて、

そうして鉄砲組の役目を与えられ、日々、国のための武器の発明に励んでいるらしい。


円士郎の側室になってから、彼の許可で男装して時々城内を見て回っている私が訪ねていったら、

「師匠! この火薬はどうしましょう」

と、見覚えのある少年が鬼之介の周りをウロチョロしていて、

「ヤコ丸」と呼ばれていたその少年は、海野家の屋敷で鬼之介と何やら死闘を繰り広げていた様子の、闇鴉一味の残党だった。

なんでも、捕まった後、処罰の代わりに鬼之介のもとで弟子にすることが決まったのだそうだ。

鬼之介はガキは嫌いだとブツブツ言いながらも、「師匠」と呼ばれてまんざらでもない様子だった。


海野家に潜入して捕まっていたところを鬼之介に救出された霊子は、ますます鬼之介のことを好きになったようで──


その気持ちは、ヤクザから円士郎に守ってもらった私にはよくわかった。

私は武芸に通じていたせいでほとんど縁がなかったけれど、

好きな人に危ないところを助けてもらって、凄くドキドキした。

あんな性格だけれど、霊子もきっと同じなんだと思う。


そんな霊子は、今は鬼之介の屋敷で女中をして、せっせと彼の身の回りの世話をしているらしい。


うーん、いっそ夫婦になってしまえばいいような気がするのだけれど、

鬼之介にはその気がないのかなあ……?


この変わり者の二人のことは、今もよくわからない。