思いきり蹴られて、子分さんは悲鳴を上げながらゴロゴロと土手を転がり落ちていった。


「何しやがるんでェ!」

身構えて殺気立つ残りの子分から遠ざけるように、円士郎は私の肩を抱いて引き寄せて、


「てめえらこそ、この俺の女に手ェ出そうとするとは、いい度胸だなァ」


怒りで青筋の浮かんだ顔で仁王像のように立って、ごきごきと手の指を鳴らした。


「え? うえっ?」

「円の旦那と──またおつるぎ様!?」

酔いが吹っ飛んだ様子で、子分たちが飛び上がった。


「え、円の旦那ァ! あ、あ、アンタ、こんなトコで何してんで?」

「殿様になったって聞きやしたぜ?」

「おう、この国の今の殿様は俺だ」

円士郎が堂々と言い放って、「ひえっ」と子分たちがまた飛び上がって、

「な、何だって、その旦那が──あ、いやいやお殿様が、こんな所にいらっしゃるんで!?」

「し、しかもそんな格好で……」

「てめえらにゃァ、関係ねェ!」

円士郎の剣幕に、子分たちが土手を転がるようにして逃げて行って──


こんな風にヤクザに絡まれて円士郎に助けてもらう、なんてことは初めてだった私は、

ドキドキして、

円士郎が口にした「俺の女」という言葉が耳の奥で何度もこだまして、

熱くなったほっぺたを押さえて、ぽーっと彼の横顔に見とれていた。


これまで女の格好をして円士郎と出歩いたことはなかったけれど、

女の着物を着て来て、いいことがあったなあ、とぼんやり思った。