恋口の切りかた

言葉を発することができず、目を見開いて彼女を見つめる俺に、

「ありがとう、エン」

と、留玖は囁いた。


「エンが私のためを思って、そんな風に迷ってくれたなんて、凄く嬉しかった」


留玖は幸せそうに、
目を閉じて、俺の胸に顔を埋めた。



「だって、普通に考えたら──迷う必要なんてないことでしょう。

円士郎様は、この国のお殿様になったんだよ?

お殿様の正室は、血筋の正しい由緒ある家柄の姫君じゃないと駄目なのに──」



「留玖、俺は……」



慌てて口を開こうとした俺を遮って、「ううん」と留玖は首を振った。



「前に父上は、私は砂倉家の正室にもなれる身分なんだって言ったけれど、それは私に自信を持たせるための嘘だよね。

たとえ結城家の養女という肩書きがあったとしても──農民の子である私は、大名家の側室にしかなれない」


「そんなのは、関係ねーよ……」


「関係あるよ。

エンにはこの先、江戸で将軍様にお目見えして、色々な偉い人と知り合って──この砂倉家のためになる他家からの縁談があるかもしれないでしょう?

エンの正室の座は、そのために開けておかなくちゃ駄目だよ。

私を正室にして、エンの出世に繋がるかもしれない機会を潰すような真似をしては駄目」