恋口の切りかた


 【円】

俺は迷っていた。

彼女を俺の正妻にして、一生をかけて幸せにしてやりたい。

それが、彼女への思いに気づいてからずっと俺の望みだった。


側室という立場は、妻とは違う。

家族になることとは違う。


俺は家族を失った留玖に、俺のそばに確かな居場所を与えてやりたかったのだ。


だから俺は、結城家にいた時、何の迷いもなく正妻という立場に彼女を置きたいと思った。


だが──


結城家を出て、
砂倉家の家督を継いで、

結城家の娘である留玖との間に、ようやく何の障害もなくなった今──


俺の正室という立場には、代償がつきまとうことになった。


戦国の世の終わりに定められた決まり事で

大名家の妻は、将軍家の人質として江戸屋敷に住まわせなければならないのだ。


参勤交代で江戸と国元を一年置きに移動する俺とは、一年置きにしか会えなくなる。


生まれ育ったこの国を離れて、
誰も知人のいない江戸にたった一人で残される留玖のことを思うと、

正室になどしたくないと思ってしまう。


妻という肩書きにこだわって、彼女を手放すようなものだ。


そんな形だけの家族よりも、

彼女を俺の側室にして、二度と離さずそばに置きたいと思ってしまう。