恋口の切りかた

あの極彩色の女隠密がうまく伝えたということなのか、特に幕府からの咎めもなく隠居した彼は、
今は城を出て最愛の初姫と二人、静かに暮らしていると聞く。

「俺の運命が変わった時、殺された殿の身代わりとして、円士郎の名前が最初に挙がったことは聞かされているよ」

卯月はぽつりとそうこぼした。

俺は苦笑いした。

「その場にいた家臣全員から猛反対されて、あんたになったらしいけどな」

「はは、……本当に、わからないものだな、人間の一生というのは」


そんな風に呟く青年と並んで墓を見つめて、しばし互いの奇妙な運命について思いを巡らせて、

そうだな、と俺は頷いた。


「菊田のオッサンは、だから面白いって言ってやがったけどな」

「父上が……?」

卯月は目を丸くして、そうか、と言った。

「円士郎は、己の身に降りかかった数奇な運命を、面白いと思って楽しめるのだな」

「ん? まあ確かに、殿様って役目もそれなりに楽しませてもらってはいるがよ」

俺は、先君の顔をそっと窺い見た。


「俺とあんたとじゃ、やっぱり立場が違うだろ。

俺は来月には江戸でお上に顔を見せて、正式にこの国の主君として認められることになってるが──あんたの場合、他人の替え玉をやらされてたわけだからよ」


世の中にはそれを楽しめる、与一のような人間もいるようではあるが。


「面白くねーだろ、普通は」


俺は、形ばかりの墓石を軽く睨んだ。

「そういうものかもな……」と言って、隣で卯月が小さく笑う気配がした。