恋口の切りかた

見覚えのある人影が、墓地のほうへと入ってゆく。

以前、ここで俺が会ったのは菊田水右衛門だったが──


俺は空の太陽を見上げて逡巡したが、
人影の後を追って、墓地へと足を踏み入れて、


「左馬允サマ──」


菊田のオッサンが眺めていたのと同じ小さな墓石の前に立った人物に、声をかけた。


「──いや、隠居した今は卯月様と呼ぶべきかな」


俺の声に、先代の殿様である若者は、少女のような顔に驚きの色を浮かべて振り返ってきた。


「円士郎──いや、今は『殿』か」


隠居して名を卯月(うげつ)と改めた左馬允は、そう言って俺を見つめた。


「な──円士郎がどうして一人でここに、しかもそんな格好で……」

う、と俺は小さくうめいた。

「まあ、ちょっとワケありでよ。あんまり長く話してもいられねーんだが」

俺は卯月が見つめていた墓石に視線を落とした。

「ああ──」

彼は微笑んで、

「自分の墓を眺めるというのも、おかしな気分だな」

と、くだけた口調で言った。