「留玖とは──焦らなくても、彼女が屋敷に戻ってきたら好きなだけ一緒にいられるわけだからな」


雨の上がっていた空を見上げて、
逸る己の心に言い聞かせて、

この時の俺は、そう思い込んでいた。




留玖が愛しい。


俺のために、ここに駆けつけて、

必死に俺の命をこの世につなぎ止めてくれた。


離れている間に募った思いと重なり合って、

留玖が側室になって結城家を去って離れる前よりもずっと──


彼女への想いは強くなっていた。


もう二度と離れたくない。

ずっとこの腕の中に閉じこめておきたい。



俺の胸の中は彼女のことで埋め尽くされていて──



しかし、

俺と留玖が過ごす時間は、俺が思うようには与えられなかった。



この日から間もなく、

隣国の氷坂家が改易となり、
砂倉家にはお咎めはなかったものの、お上から砂倉左馬允には茶器が贈られ(*)、

代わりに俺は城へと入り、奥を出て結城家に戻った留玖とは完全に入れ違いの形になってしまったのだ。



(*茶器が贈られ:将軍から大名に茶器が贈られるのは、隠居しろという含みだったらしい)