恋口の切りかた

「まさか、あの夜の侍が女だったとは思わなかった、結城のおつるぎ様」

鎖鎌の兵衛は、私をながめて肩をすくめて、

「わからんねェ」

と言いながら、視線を覆面家老へと移した。


「屋敷に逃げ帰ってきた夜叉之助たちの話だと、その覆面頭巾の中身は噂どおり──顔面の崩れた黒い髪に黒い瞳の男だったって言うじゃねーの。

俺が見たのは、確かに異人の血を引く者のかんばせだったがねェ。

いくら夜で暗くても、見間違えるワケはないんだがな」


手の中で鎖鎌をもてあそびながらそう言う男に向かって、覆面の御家老は鼻を鳴らして、

「それは、残念だったな」

頭巾に手をかけ、頭部を覆うそれをはぎとって見せた。


「おっ?」と、兵衛が声を上げる。


「何だ、やっぱり貴様じゃねーか。

そのツラ、例え成長して多少変わってたって俺は忘れんよ、緋鮒の仙太」


男が凶悪にゆがめた目でこちらをにらみ据え、

金の髪の下で緑の瞳にあざけるような色を浮かべて、美しい若者は冷笑で返した。


「俺の得意分野で勝負したかったようだが──やはりこちらが一枚上手だった、ということだ」

「くそガキが……!」

兵衛の目つきが険しくなり、


「だったら今度は、俺の得意分野で勝負と行こうか」

殺しを商売にしているという男は、手にした鎖鎌をひゅっと一振りしてそう言った。