恋口の切りかた

ジョオン、ジョオン、という
耳に心地よい弦楽の音は三味線のものとも違っていて、


音源を探して首をめぐらせた私は、庭を望む濡れ縁に腰掛けて楽器を鳴らしている一人の男を見つけた。

「琵琶か……」

男が手にしている楽器をながめて、横で青文がつぶやいた。


ジョオン、ジョオン。

楽器の弦を弾いて、どこか哀愁の漂う音を出しながら、


「父親がよく弾いてた……と言っても、盲人だったわけじゃないぜ」


縁台の柱に背を預けて、その男は着流し姿で優美に微笑んだ。


この「声」は……!


私は緊張する。


覚えがあった。

それはいつかの夜、闇の中から響いてきた声で──


「あんたや海野みたいに御家老とまでは行かなかったが、れっきとした武家の人間でな、
側用人だった」


青文を見つめてそう語る男は、年の頃なら三十代後半くらいだろうか。

顔立ちは端正だが、鋭い双眸には尋常ならざる眼光、


そして、


「まあ、仕えてた家中は──俺がガキの頃に改易になっちまったけどな」


ことり、と琵琶を縁台に置く両腕には、
罪人に入れられる、輪のような入れ墨があった。