その日、城下町では捕り物騒動があって、

町同心(*)の手を逃れた罪人が
どこかに姿を消すという事件があった。


どうも人を殺した者が逃げているらしい。


それが武家屋敷の立ち並ぶ辺りで姿を見失ったとかで、

ひょっとすると
どこかの屋敷に入り込んでいるかもしれないとのことだった。


こういう場合、

武家屋敷というのは
同心の調べの手もなかなか及ばないのだそうで、


念のため気をつけるようにと父上は言い、



──漣太郎と平司と私に、刀を渡した。



そして、

「もしも屋敷内でお前たちがその者を見つけたら──かまわん。斬れ」

と言った。


(*町同心:城下町のおまわりさんみたいなもの)