恋口の切りかた

お家の改易だけは、何があっても防がねばならない。

幼い頃にりつ様から言われた言葉が蘇って、今のこの状況の深刻さが私にもわかった。



これが、真の狙いだった……?


藤岡家老や砂倉家の血を引く菊田水右衛門をそそのかし、

青文や円士郎を陥れて、殿の両腕をもいで孤立させるような真似をしたのも──


この国に内紛を起こして、幕府からのお咎めを受けるよう仕向けるために……?



「氷坂家にとっては、たとえ事がうまくゆかなかったとしても──盗賊ならば、切り捨てて知らぬ存ぜぬで通せば問題ない。

てめえはそう言って、氷坂家の家中に話を持ちかけたんだろうが」


円士郎は清十郎に向かってそう言って、

清十郎はやっぱり氷みたいな冷笑のままだった。


ほっほ、と笑い声がしてそちらを見ると、藤岡と菊田が唇と目を笑みの形に歪めて円士郎を眺めていた。

二人は何やら軽く頷き合って、

「どうやら円士郎殿のことを少し見くびっておったようじゃ」

藤岡がそんなセリフを口にして目尻の皺を深くした。


狼狽する侍たちの中にあって、
未だ全く余裕を崩さない白髪の老人と先法家当主の姿に、私は前に青文が言っていたことを思い出した。


ひょっとするとこの二人は、
殿を隠居させて菊田を擁立することに失敗し、この国が改易となっても──

隣国の氷坂家で要職に着くことができるという約束を交わしているのかもしれない。


私はそう思って、



「はて、何のことかのう」

次の瞬間、藤岡仕置家老の口から飛び出したのは耳を疑う言葉だった。