恋口の切りかた

夜叉之助……?

聞いたことのない名前に、私は目を瞬いた。


「そのような真似、するに及ばず」

一転して追いつめられる格好になっていた清十郎が、しかし鼻で笑った。


「氷坂家の四男である私が盗賊の首領だなどと……では、氷坂清十郎なる人間が初めから存在していなかったなどとでも言うつもりか?

隣国に行けば、私の幼い頃から今に至るまでの話がいくらでも聞けるだろう。

それともどこかで盗賊とすり替わったとでも?

疑うならば、氷坂の家中の者を連れてきて確かめてみるがいい。
私が間違いなく氷坂清十郎本人だということがわかる」


「だろうな」

口を開いたのは円士郎だった。

「氷坂の家中の者に尋ねれば、口をそろえてお前が氷坂清十郎だと答えるだろうさ」

そう言ってから、円士郎は目つきを鋭くした。

「だが、その氷坂家の家中が──盗賊とグルだったならば、どうだ?」

「面白いことを言う。
武士が盗賊と手を組んで、隣国の家老家に盗賊の首領を送り込んだと?
荒唐無稽もいいところだな。いったい何のためにだ?」

「この国を改易に追い込み、氷坂家編入とするためだ」


その言葉には、

ざわっと──周囲の侍たちも反応した。


「俺にもようやく、てめえと氷坂家の目論見が理解できたぜ。

今のこの国のこの状況こそが──てめえらが狙ってたものだったんだろ?」


円士郎はそんなことを言って、


「どういうことだ……?」と、殿が上擦った声で尋ねた。

清十郎はぞっとするようなにやにや笑いを浮かべて、円士郎の言葉を聞いていた。