あれっ? と思った。

道が違う……?


本当は、側室の私は駕籠に乗せてもらえると言われたのだけれど、

それでは何か起きた時に対処できないと思ったので、
駕籠にも馬にも乗らず、私は殿の乗った駕籠の近くに付き従って歩いていた。


だからすぐに気がついた。

行列は城への帰路を逸れて、別の方向に向かっている。


変だと思って、私は周囲の人たちを見回した。

でも家来の人たちはみんな、それが当然のような顔をしていて、

私は、どこかに寄り道するのかなあ、と思って


やがて行列が辿り着いたのは、初姫様がいる城外の別宅だった。

殿の駕籠が下ろされて、
家来の人たちが礼の姿勢を取って、
殿が駕籠から出てきて

なんだ、初姫様に会うためにここに寄ったのか、と私は納得したのだけれど──


「どういうことだ?」

駕籠から降りた殿は周囲を見回して、怪訝な表情になった。

「私はこの別宅に寄るように言った覚えはないぞ」


え──?


私は首を傾げた。


考えてみると確かに妙だった。

こんなに大勢の家来と一緒に初姫様のところに寄ったら、
春告院様のお耳にも入って、また怒りを買うことは目に見えている。


「すぐに城へと戻る。駕籠を出せ」

殿はそう命じたけれど、家来の人たちは何故か誰も動こうとしなくて

戸惑う殿の前へと家来たちの間から歩み出たのは──清十郎だった。


「海野、これは何の真似だ?」

そう問う殿に、

「殿にはこの先、ここで初姫様と暮らしていただきます」

清十郎は端正な顔に氷のような冷笑を貼りつかせたまま、そんなことを言った。