恋口の切りかた

それからも、俺は何度か左馬允に呼ばれて稽古相手や話相手をして、

しかしそこで留玖の話題が上ることは二度となく、

陰鬱な梅雨が明け、

蝉の声がうるさい七月になって──


ちょっとした事件が起きた。




宗助の姿が消えた。

宗助は、おひさという女中の行方を相変わらず追っていたようだったが、
何日も連絡がないまま、姿が見えなくなったのだ。


親父殿に事情を話して、他の忍びを使って宗助を探させたが、杳(よう)として行方は知れぬままで──


七月の半ばにさしかかったある日の午後、

隼人が役宅ではなくわざわざ結城家の屋敷を訪れて、俺の所に「内密の話がある」と言ってきた。


「どうした?」

隼人を座敷に上げて、外の蝉の声を聞きながら扇子を動かしつつ俺が尋ねると

「神崎殿のことなんだけどよ。ちょっと気になることがあって……」

隼人はそんなことを言い出した。

「帯刀が? なんだ?」

「家中の十年前の記録を調べててわかったんだけど」

「十年前の……?」

俺は眉を上げた。

「ってまさか、改易騒動のこと調べてたのか? 何だよ。さわらぬ神に祟りなしじゃなかったのかよ」

「ち……違うって」

隼人は慌てた様子で手を振った。