「いや……いやあ──っ」


私は泣き叫びながらお殿様を突き飛ばして、立ち上がった。


「留玖──!?」

お殿様が唖然とした顔を私に向けて、

「留玖!? 待て! そんな格好で、どこへ……」

慌てふためくような声を背中に聞きながら、私は閨を飛び出してしまった。


はだけた着物にも構わず、自分がどこを進んでいるのかもわからないまま走り続けて──


気づいたらどこか、
城の中庭のような場所に裸足のまま立っていた。


真っ暗な夜の闇の中に、何かの木が見えて、

私はその木の下に駆け込んで、乱れた息を吐いて、


「エン……」


泣きながら、いるはずのない人の姿を求めて辺りを見回した。

ぽろぽろと、涙がこぼれ続けた。




「ちゃんと、幸せになれ」




円士郎の言葉がまた、耳の奥で私を苦しめる。




幸せになんか──なれるわけないよぉ──




私は目の前の木に手をついて、声を出して泣いた。




エンと離れて、

大好きなエンと引き裂かれて、私はもう幸せになんかなれない──