留玖と虹庵がどのような手合わせを行ったのかはわからなかったが、
鬼之介が引き上げていった後、道場の裏で一人木刀を振っていたら俺を探して留玖がやってきて、
彼女は途方に暮れた顔でその場に立ち尽くして、おろおろと言葉を探すように視線を動かして──
あのままだったら更に苛ついていたかもしれないその態度を、
今度は俺は愛おしいと感じた。
だがこの日、留玖の才能を見せつけられた俺は、
留玖に対して無意識で行っている手加減と、
根本的な剣才の両方で彼女に勝てない己を知って、やはり打ちのめされた気分だった。
このままでは、本当に清十郎の言うように、道場を継ぐのは俺ではなく留玖になるのではないか──
この考えは俺に絶え間ない劣等感を与え続けて、
清十郎と留玖との縁談を突っぱねた後も、気持ちは全然晴れなかった。
そんな俺を更にあせらせるような出来事が、二月に入って起きた。
留玖を、城の別式女(べっしきめ)として奥に召し抱えたいという話が来たのだ。
どうも清十郎との勝負が評判になったらしかった。
別式女というのは、家族以外の男が立ち入れない奥の警護をする女のことで、奥方や姫を護るのが仕事だ。
殿様の家以外でも、
伊羽家のような家老家や、結城家など先法御三家でも奥には腕の立つ女を置くのが普通である。
うちでも、留玖ほどではないにせよ、それなりに腕の立つ者が母上やりつ殿の周囲にいる。
殿様の家の場合、江戸屋敷と国元の城とそれぞれに置かれ──帯刀を許される正規の役職だ。
留玖に来た話は、
この別式女として城に上げ、ゆくゆくは彼女を国元の別式女組頭にしたいという内容だった。
結城家の娘には無礼な役目かもしれないが、
建前として警護の任について、彼女には奥の者たちの剣術指南を頼みたいというのだ。
剣術指南──。
俺にはまだ遠いその響きが、大きな衝撃としてのしかかった。
鬼之介が引き上げていった後、道場の裏で一人木刀を振っていたら俺を探して留玖がやってきて、
彼女は途方に暮れた顔でその場に立ち尽くして、おろおろと言葉を探すように視線を動かして──
あのままだったら更に苛ついていたかもしれないその態度を、
今度は俺は愛おしいと感じた。
だがこの日、留玖の才能を見せつけられた俺は、
留玖に対して無意識で行っている手加減と、
根本的な剣才の両方で彼女に勝てない己を知って、やはり打ちのめされた気分だった。
このままでは、本当に清十郎の言うように、道場を継ぐのは俺ではなく留玖になるのではないか──
この考えは俺に絶え間ない劣等感を与え続けて、
清十郎と留玖との縁談を突っぱねた後も、気持ちは全然晴れなかった。
そんな俺を更にあせらせるような出来事が、二月に入って起きた。
留玖を、城の別式女(べっしきめ)として奥に召し抱えたいという話が来たのだ。
どうも清十郎との勝負が評判になったらしかった。
別式女というのは、家族以外の男が立ち入れない奥の警護をする女のことで、奥方や姫を護るのが仕事だ。
殿様の家以外でも、
伊羽家のような家老家や、結城家など先法御三家でも奥には腕の立つ女を置くのが普通である。
うちでも、留玖ほどではないにせよ、それなりに腕の立つ者が母上やりつ殿の周囲にいる。
殿様の家の場合、江戸屋敷と国元の城とそれぞれに置かれ──帯刀を許される正規の役職だ。
留玖に来た話は、
この別式女として城に上げ、ゆくゆくは彼女を国元の別式女組頭にしたいという内容だった。
結城家の娘には無礼な役目かもしれないが、
建前として警護の任について、彼女には奥の者たちの剣術指南を頼みたいというのだ。
剣術指南──。
俺にはまだ遠いその響きが、大きな衝撃としてのしかかった。



