恋口の切りかた

とにかく私は自分の身を守って円士郎のそばにいるために、清十郎との勝負に勝つことで頭がいっぱいだった。

寒さがゆるんでせっかく咲いた梅の花(*)を散らせるように、この日は朝から冷たい粉雪が舞っていて、


結城家の道場に現れた清十郎は、まるで外の冷気をそのまままとっているかのごとく、

相も変わらず凍える氷のような瞳をしていた。


「素直に俺のものになれよ、留玖」

挨拶の後、清十郎は私に近づいてそう耳打ちして、

「結城家からは離れるのが、お前のためだ」

やっぱりそんなことを言ってきて、

「どういうことですか」

私は彼を睨みつけた。

「私は、絶対に円士郎様のおそばを離れません……!」

唇を噛んでそう告げると、

清十郎はまた少しつらそうな、苦しそうな──優しい目に私を映して、

青文から聞かされたこの人の過去が脳裏に浮かんで、私の胸は騒いだ。


私と──似てる……から?


だから、こんな風に落ち着かない気持ちになるのだろうか。



道場には、この勝負の噂を聞きつけて、門下生以外にも大勢の者が見物におしかけて来ていて、

円士郎は負けても何か手を講じると言っていたけれど、

こんな衆目にさらされた場で私が負けたら、清十郎のもとへお嫁に行かないと断ることなんかできない気がして──


私は何が何でも負けるもんかと固く心に誓った。


勝負は、鬼之介、円士郎、それから私の順で行うことになっていた。

「ほう、あれが海野清十郎か」

最初に勝負する鬼之介はジロジロと清十郎に視線を送って、

「こいつはまた──貴様に劣らず美丈夫だな」

などと、円士郎に言った。



(*梅の花:作中の暦は全て旧暦となっております。このため、ここで言う江戸時代の一月の終わりというのは我々のカレンダーでは三月の中旬頃のこと)