恋口の切りかた

「でも、仮にそうだとするとよ、わかんねーことが出てくるんだが……藤岡たちが清十郎に荷担してんのはどういうこった?

清十郎は国に戻ればいいだけかもしれねえが、この国がなくなったら藤岡たちだって困るだろ。
他の連中はともかく、あの狸ジジイや菊田のオッサンが言葉巧みに操られてるとはとても思えねえぞ」

「簡単なことだ」

青文は横目で俺を見て、事も無げに言った。

「たとえこの家中が改易となっても、氷坂家に再仕官できるよう既に取り計らってあるんだろうさ」

失脚させられた城代家老は、端正な顔を歪めて、くっくっく……とさも愉快そうに笑いを漏らした。

「こいつは面白いな」

「いや! 面白くねーし」

隼人がぶんぶん手を振った。

水を得た魚さながらに生き生きとしてきた青文を見て、ふん、と俺は鼻を鳴らす。

「陰謀が絡んでるんなら、黙ってる気はねーってところか?」

「まァな」

謀が得意分野の男はニヤリとした。

「そうなって来ると、だ。
円士郎様の言うように、俺にもいくつかわからねえことが出てくる……これまで起きたことを考えるとまた別の可能性もあるな。

やれやれ、もう一度隣国に行って色々と調べ直す必要がありそうだ」

何手先まで読んでいるのか、青文はそんなことを言って、

「ま、この国の上のほうは色々と複雑なことになっててね。
そこの事情をちゃんと理解してねえと、他国の人間にはそう簡単にどうこうできねえハズなんだが……」

「それはひょっとして──十年前の改易騒動とも何か関係があるのか?」

以前ここで交わした会話を思い出したのか、帯刀がそんな風に口をはさんだ。


くくっと青文の喉が低く笑い声を立てて、

「それこそ、さわらぬ神に祟りなし、だぜ?」

城代家老の口からはそれ以上の詮索を禁じる言葉が飛び出した。


ふうん?

やはりこの国には俺たちの知らない何かがあるのか?


帯刀が黙り込み、隼人がもう一度「うへえ」と言った。


青文はそれから、つと緑色の双眸を鋭くして、

「だからこそ──国崩しの断蔵が厄介なんだがな」

国の秘密を知らないこの時の俺にはわからないことを呟いた。