恋口の切りかた

青文は複雑な表情を浮かべ、「俺も、一応その可能性はあると思ってね」と言った。

「亜鳥に似顔絵を描かせて、氷坂家の家臣に確かめてみたが──清十郎本人に間違いないそうだ」

「ってコトは……」

「放蕩の限りを尽くした馬鹿息子は、何があったのか幽閉されている間に計算高く聡明で理知的な男に生まれ変わって、この国の家老家に養子に出された、とこういうワケだ」

青文は肩をすくめた。

俺は納得が行かないような、モヤモヤしたものが残るのを感じた。


しばらく沈黙が落ちて、


「どうして──清十郎は氷坂家にいた時、そんなに酷い行いばかりしてたのかな……?」

留玖が視線を膝元に落としたままそんなことを言った。

「どうしてって……そりゃ、根性がねじ曲がってたんだろ」

俺は忌々しい思いで吐き捨てた。

「うーん、何つうか……話を聞いた印象だと、気に入らないことがあって荒れてたような感じっスよねェ」

隼人が首を捻りながら、

「気に入らないことがあったっつうか、人生そのものが気に入らないっつうか……」

などと言って、

「清十郎はな、親の愛情を全く知らずに育ったんだそうだ」

青文はやはり複雑な表情を湛えた緑色の瞳で留玖を見て、そう言った。


「親の愛情を、知らずに……?」

留玖が大きな目をいっぱいに見開いて、青文の顔を見つめた。


「側室の子として生まれた清十郎は、物心つく前に病で母親を失い、父親である殿様からは見向きもされずに育った。

周囲からは殿様の子ということでただチヤホヤと甘やかされて──本当の愛情を知らず、歪んだ行いの数々も、ひょっとしたら父親の気をひきたくてやってたのかもしれねェな」


青文の話を聞いた留玖は再び目を落として、膝の上の両手をぎゅっと握った。