恋口の切りかた

「ほー。それはまた、どっかの誰かさんみてえだな」

隼人が半眼になって俺を見た。

「親の権力に物を言わせて、自分に意見した家臣になんくせをつけて陥れたり、気に入った町娘がいると力ずくで自分のものにしたり、気に入らない者に対して道端でいきなり斬りつけたり……」

青文は隣国での奴の風評とやらをそう説明して、

「何だよ、この国に来てからも清十郎がやってることそのまんまじゃねェかよ。どこが評判と違うってんだ」

俺は、青文や留玖や俺に対して清十郎がやってきたことを思い起こして鼻を鳴らした。

「自分の馬の前を横切ったというだけの理由で幼い町人の子供を斬り殺したり、酒に酔った勢いで家臣の妻を手籠めにして、抗議したその家臣を妻共々その場で斬り捨てたりもしたそうだ」

「な──」

俺たちは思わず絶句した。

「さすがに……円士郎様もそこまでヒドくはねーか」

隼人がボヤいて、

「そのような非道の行い、いくら殿の御子とは言え、家中の者は皆黙認してきたのか!?」

帯刀が怒りの滲んだ声音で言った。

「いや。度重なる所業に家臣や民から怒りの声が集中して、殿様もとうとう庇いきれなくなったようでな、ついに親にも見放されて、ここ数年はずっと城の中に幽閉されていたらしい」

「親に……見放されて……?」

青文の言葉を、留玖が小さな声で繰り返した。

「冷酷な人格は、確かにこの国の家中に来てからの海野清十郎そのものとも言えるが──俺が見てきた海野清十郎は聡明な男だ。このように理不尽で非道な行いを繰り返す愚かな人間とは思えない」

青文は理解し難いという様子で眉間に皺を寄せて、

「幽閉されている間に、何か人格を根本的に変えるような出来事でもあったのか──」

自らのつらい過去とも重ね合わせているのか、自嘲気味にそう呟いた。


「──あるいは全くの別人、か?」


帯刀がぽつりとそう言って、俺や隼人は顔を見合わせた。

「別人って……相手は殿様の子供だぞ?」

「そんなことがあるかァ?」