恋口の切りかた


 【円】

内密の書状で呼び出されて、留玖を連れて盗賊改め方の役宅である神崎邸に行くと、

奥の間で隼人や帯刀と共に俺を待ちかまえていたのは金髪緑眼の青年だった。


海野清十郎について探っていたという御家老は、これまで何をやっていたんだと問う俺に、

「なァに、町人のフリしてちょいと隣国まで調べ物に行ってきたのさ」

などと平然と語って、
帯刀の表情が強ばり、隼人が「有り得ねー」と呟いた。

「御家老が御自らか!? 失礼だが、御身は蟄居中であらせらるるぞ」

「本当に『類は友を呼ぶ』かよ! これまで伊羽青文様は家中きってのカタブツだと思ってたのに──この人、想像と違いすぎるぞ円士郎様」

帯刀と隼人が口々に言って、

「隣国っつうと……氷坂家か?」

俺は二人の反応は完全に無視して、この国の隣にある小国を思い浮かべた。

「ヒサカ家?」

留玖が可愛い仕草で首を傾げて、

「海野清十郎はもともとそこの四男だ」

と俺は言った。

「それで? 何か収穫でも?」

俺が問うと、青文は白い唇をニヤリと吊り上げた。

「収穫も何も──清十郎という男、あまりに妙だ」

氷坂家の家中に自ら探りを入れてきたという御家老は、

「一致しないんだよ」

と言った。

「一致しない? 何がだ?」

「海野清十郎と氷坂清十郎の評判だ」

俺の問いにはそんな答えが返ってきて、青文は顎に手を当てて何かを考えこむようにした。

「氷坂の四男の清十郎はな、家中では放蕩の限りを尽くした馬鹿息子で、親である殿様からも見限られるほどのうつけ者だったと、氷坂の家臣や民は誰もが口をそろえて言いやがるんだよ」