恋口の切りかた

額から顔を伝って流れ落ちた血は、彼の着物の肩に赤い染みを作っていた。

「え、エン……」

「留玖、俺をぶん殴れ」

口を開きかけた私をさえぎって、雪の中に立った円士郎はそんなことを言った。


「お前のことが大事なのにな。傷つけて、泣かせて──最低だな、俺は」


円士郎は眉を歪めて目を落とした。


「思いきり殴ってくれ」


言われて、思わず私は拳を固めた。


円士郎が目を瞑って──





「留玖……?」


驚いたような声が、頭上から降ってきた。


私は殴る代わりに円士郎の胸に飛び込んで、彼を抱きしめていた。


「ごめんなさい、ごめんなさい、石なんてぶつけて……」


私は円士郎の着物に顔を埋めて泣きじゃくって、


「痛かったでしょう……ごめんなさい、エン……」


円士郎から、息を呑むような気配がした。


「な……なんで、お前──」


狼狽した声がして、


「──なんでだよ……!?」


温かい腕が私の背中に回って、私を包み込んだ。