恋口の切りかた

本当はすぐに円士郎に走り寄りたかったけれど、

「近づかないでっ」

気持ちとは裏腹に、私の口からはそんなセリフが飛び出して、

私は足下の石ころを拾い上げて、円士郎に向かって投げつけた。


「留玖──」


円士郎が強ばった顔で私を見つめて立ち止まって、石は円士郎の近くに落ちてコン、と音がした。


「何よっ、あの女の人がいいんでしょ!」


口にしたら悲しくて、つらくて、ひりひりするほっぺたをまた涙が流れた。

私は石を拾い上げて、


「エンのばかっ、大っ嫌い!」


泣きながら、円士郎に投げた。


「大好きなのに! 私はこんなにエンのことが、大好きなのに」


ぽいぽい石を放って、


「嫌い! 大嫌い!」


私は自分でも何を言っているのかわからなくて、矛盾する二つの気持ちを円士郎にぶつけ続けた。

立ち止まって私を見つめていた円士郎が、投擲の中をこちらに向かって歩き始めた。


「いやっ! 来ないでよっ」


私は叫んで、思いきり石を投げて、

円士郎はそれを避けようとしなくて、勢いよく飛んだ石が彼の頭に当たった。


涙に滲んだ視界の中に真っ赤な血の色が映って、私は凍りついた。


「悪ィ、留玖。ごめんな……」


ぽたぽた額から流れ落ちる血にも全くかまわずに、円士郎は真っ直ぐ私のそばまで歩いてきて、私を見下ろした。