恋口の切りかた

「な……なに、それ……?」


私は自分の体を抱きしめて、震える声で聞き返した。


「どういう意味……?」


そう言えば円士郎も、
この人から次はお前だと言われた、という話をしていた。


「さあね」

清十郎は私の問いには答えずに背を向けて、そのまま土手のほうへと歩き出して──

「海野清十郎! てめェ──」

耳慣れた怒鳴り声が飛び込んできて、私は弾かれたように土手の上を見上げた。

「ここで留玖に何してやがった!?」

走ってきたのか、土手の上で円士郎が荒い息を吐きながらこちらを見下ろしていた。

「ああ、無理矢理楽しませてもらおうかと思ったが──あまりに円士郎様の名を呼んで泣くので途中でやめにした」

「な──」

円士郎を見上げる清十郎の顔は私からは見えなかったけれど、嘲笑うような口調で紡がれた言葉に円士郎が絶句して、蒼白になって立ち尽くした。

清十郎は悠々と土手を上って、凍りついた円士郎とすれ違って去っていって、


くすっと、それを見送った女の人が私の前で笑って、
土手の上の円士郎と涙に濡れた私の頬とを眺めた。

「こんなに泣かせて──本当に仕方のない坊やたちだこと」

その声は、私が聞いても綺麗で色っぽくて、きっと円士郎が惹かれるのも当然だと思えた。

悔しいけれど私には全然勝ち目なんかない気がした。

唇を噛んでいたら、

「あなた、そんなに可愛いんだから、ちゃんと大切にしてもらいなさいな」

女の人は私の気を知ってか知らずかそんな言葉を寄越してきて、

ぞくっとするような目で私を流し見てから、こちらは土手を上らず、そのまま薙刀を担いで河原をどこへともなく歩いて行ってしまった。


「留玖!」

雪の降りしきる河原に残された私のところへ、円士郎が転がるようにして土手を駆け下りてきた。