エンが、私を裏切ったんだ。

だったら私も、この人の好きなようにされたらいいんだ。


そんな投げやりな気持ちになって、



でも、清十郎が私の着物の襟元に手をかけて、胸の上に何かが触れる感覚が走った途端、



──他の男には、やるなよ。



円士郎の声と温もりが蘇って、



「やだあっ……!」



清十郎の腕に抱かれたまま、私は悲鳴を上げた。


やだ!

やっぱり嫌だ。

円士郎じゃなきゃ、やだ。


「エン……エン……エン……」


無意識にそう口にしていて、

清十郎が私の胸元に押しつけていた顔を上げて、憎しみのこもった目で私を睨んだ。


「何故だ? 愛情を失って育った子供が、どうしてお前のように誰かを愛せる……!?」


清十郎が何を言っているのかわからなくて、私は震えながら泣き続けて、


エン……エン……エン……


呪文のようにその名前を繰り返していたら、清十郎は何かを悟ったように私を見下ろして、

「結城円士郎か……」

と、呟いた。


「お前を捨てた親の代わりに──あの男が、お前に愛情を与えたのか」