あの女が殺し屋と言うことは──

うちの屋敷はともかく、


「待てよ、それじゃ……秋山家の屋敷に殺し屋が出入りしてたってことか!?」

俺は手にしていた長ドスを霧夜に放(ほう)って、

「蜃蛟の伝九郎を斬り殺した、あのお侍の屋敷にかィ」

霧夜がそれを受け取った。

「だったら──闇鴉の連中が、断蔵に始末を依頼したんじゃねェのかい」

帯にはさんでいた鞘を引き抜いて長ドスを納めながら、侠客はそう言った。


俺は女の動きを思い出しつつ、女が畳に突き立てて去った俺の刀を引き抜き、
転がった鞘を拾い上げて納めて──

厄介な相手かもな、と思う。

女武芸者としては、留玖と同格の技量と見た。


──そんな考えが頭を過ぎった瞬間、

俺の意識は少女に戻って、バッと彼女に向き直った。


「エン……?」


留玖はぽろぽろ泣きながら、俺を見上げていた。


「る、留玖……今のは、あの女の正体を見極めようとして──」


俺はしどろもどろになった。


「言い訳になっちゃァねェよ、この阿呆」


ハアア、と霧夜が息を吐いて、見てられないと言わんばかりに目に手を当てた。


「エン……私……」


留玖が泣きながら俺から後退って、廊下に出た。


「わ、私ね……」


留玖は涙が流れ続ける頬に、弱々しい微笑みを作った。


「私は、エンのこと……ずっと好きだから……」


束ねた髪の毛をなびかせて、くるっと俺に背を向けて、留玖は一目散に走り去った。


「留玖ッ!!」


大馬鹿者の俺の声が、茶屋の座敷に響き渡った。