あっけにとられた俺を、キッと睨みつけて、

「円士郎様、無事か!?」

開け放った襖の前に仁王立ちになった「男」はそう言った。


墨染めの着物に散切り頭。

顔を斜めに走る大きな傷。

今は両目がある。


長ドスを片手に鬼の形相でこの場に現れたのは──


「霧夜、お前──いきなり何やってんだァ?」


虎の暗夜霧夜に変装した与一だった。


「無事かって──俺が女相手にどうこうされるワケねえだろうがよ」


俺は仰向けのままでニヤリとして、

それを見下ろして、霧夜は大きく溜息を吐いた。


「そいつは邪魔したな。だが、町を歩いてたら、円士郎様が見覚えのある女と連れ立ってここに入るのを見かけたんでね」

「ん?」

俺は乱れた着物を軽く整えながら身を起こした。

「へェ。お前、この女を知ってんのか?」

「知ってるも何も──」

霧夜は鋭く細めた双眸を女に向けた。


女はと言えば、俺の刀を畳に突き立てて手放して、

俺と霧夜を後目に、脱ぎ捨てられていた着物を慣れた様子で手早く身につけているところだった。


「前に話しただろうが!」

「へ?」

霧夜の言葉に俺は首を傾げた。

「こんな美女の話なんか、お前から聞かされたかァ?」

天井に刺さっていた霧夜の長ドスが真上から降ってきて、俺はぱしんと片手でそれを受け止める。

くすくす、と帯を締めながら女が笑った。

「鵺の側近の虎か。そう言えばあんたもこの町にいるんだったね。
久しぶりねェ、暗夜霧夜。相変わらずいい男だこと」

「は、てめえも変わらずいい女だよ」

霧夜が皮肉っぽく唇を歪めて吐き捨てるように言った。

「何だよ、本当に顔見知りかよ」

女の口振りでは、霧夜の正体は知らず、あくまで鵺の片腕という認識のようだ。

俺は二人を見比べて──