恋口の切りかた

私はぽかんと口を開けて、

人目を憚(はばか)るようにして建ったその店を見上げた。


それから、清十郎が寄越してきたセリフを何度も何度も頭の中で反芻して、


「う──嘘!!」


自分でもびっくりするような大声で叫んだ。


「そんなの嘘だもん! うそつき! なんで、そんなこと言うのっ」


「残念なことに嘘じゃあない」

清十郎は肩をすくめた。

「円士郎様はお前じゃない女をここで抱いてる」

「嘘、嘘! そんなの信じない! だって、エンは──」

体が震えた。

「え……エンは、私のこと……」



好きだって言ってくれた。

大事にしてくれた。

私の体を──円士郎への思いでいっぱいにしてくれた。



私はぎゅっと、震える自分の肩を抱きしめて──


「嘘だと思うなら、中に入って確かめてみろよ」

清十郎が残酷な声でせせら笑った。

「二階の座敷だ。中で何が行われてるか、覗いてみな」

言われて、私は怯んだ。

「そ……そんなこと──」

「どうした? できないのか? 円士郎様を信じてるんだろ?」

「そ……そうするっ」

じわっと涙が滲んできた目で清十郎を睨みつけて、


よせば良かったのに、


私は、ずかずかとその店の門をくぐって中に入ってしまった……。