恋口の切りかた

私の歩幅を考えてこの人、ずっと私に合わせてゆっくり歩いてくれてた……のかな?


意外な優しさにちょっとだけ衝撃を受けて、


ふ、ふんだ。

でも、この人は私に嫌なことしたんだもん!

酷い人には変わりないんだから!


私は口を尖らせて、ほっぺたを膨らませたまま歩き続けて──


清十郎が足を止めたのは、

私があんまり来たことのない、城下の中でも「いかがわしい」界隈だと言われている辺りでだった。

周囲に立ち並んでいるのは皆、あまり健全ではないという話の料亭やお店ばかりだ。


一軒の店の前に立ってこちらを振り返った美青年から、私は急いで一歩離れた。

「へ、変なことしたら、斬りますから……っ」

刀に手をかけながら言うと、 清十郎は吹き出した。

「俺は別に変なことなんてしないさ。『変なこと』をしているのは、お前が大好きな円士郎様だ」

「え……?」

清十郎は生け垣で囲まれた建物を親指で示した。

「留玖、お前はここがどういう店か知っているか?」

私が黙っていると、清十郎は底冷えのするようなニヤニヤした笑いを浮かべた。

「ここはな、男女の密会に使われる出会い茶屋だ」

「みっかい……」

私は間の抜けた声でその単語を繰り返して、


「お前の好きな円士郎様はな」


清十郎がいたぶるような目で私を捕らえて言った。


「ここで今、お前の知らない女とお楽しみの真っ最中だ」