恋口の切りかた

円士郎の話──?


こんな人について行くのは凄く嫌だったけれど、

清十郎の口にした内容は気持ちとは裏腹に私の足を動かして──


結局、私はこの人の後を追いかけてしまった。



「俺に訊きたいことと言うのは?」

先を歩きながら、清十郎が私に尋ねた。

「おひさちゃん──うちの女中のことで……」

私は用心深く清十郎から一定の距離を保って歩きつつ口を開いた。

清十郎様に頼んだと言ったおひさの口調からは、とても親しげな様子が伝わってきた。


「清十郎様は、おひさちゃんを知ってるんですか?」

「ひさ?」


清十郎は歩みを止めぬまま、「ああ」と言った。

「久か。あれは、あわれな娘だ」

「知ってるの!?」

私は驚いた。

「今……今、おひさちゃんはどこにいるんですか!?」

私の問いには、小さな笑い声が返ってきた。

「さてな」

知っているけれど、教える気のなさそうな返答だった。


「留玖、お前は久礼奈為という花を知っているか?」


唇を噛んでいたら、清十郎からは代わりにそんな言葉が放たれた。


「くれない?」

「そうだ。別名を末摘花とも言うな」


その花が──何だと言うのだろう。


私は続きの言葉を待ったけれど、清十郎はそれ以上何も言わなくて黙って歩き続けた。

仕方なく私も黙ってその背中を追いかけながら、ふと──私は歩き始めてから、一度も走ったり急いだりする必要がなかったことに気づいた。