恋口の切りかた

無理矢理に唇を吸われた記憶が浮上して、恐怖で体がすくんだ。


や、やだよ……なんで……?


走って逃げたいのに、足が動かない。


棒立ちになった私に、美青年は涼しい笑顔で歩み寄ってきて、

「怖いな。こんな往来の真ん中で刀なんて抜かないでくれよ」

と私の手元に目を落として笑った。


言われて、無意識に腰の刀の柄を握りしめていたことに気づく。

稽古のために木刀一本で外出していた時とは違って、今日の私は二本差しだ。


「な……なに? 何か用なんですか」


私は全身が凍えてしまいそうな気分で、こちらに向けられている氷のような目玉を睨んだ。

それから、すっかり記憶の淵に沈みかかっていた先日のおひさのセリフを唐突に思い出した。


あの時──

おひさは、年貢を上げるように「清十郎様に頼んだ」とそう言っていたのだ。


円士郎に伝えるのを忘れていた。


「用って言うか、お前に話があってな」

清十郎は、端正な顔にお面みたいな作り物っぽい薄笑いを貼りつかせてそう言った。

「私も、あなたに訊きたいことがあります」

凍えてしまいそうなのに、嫌な汗が背中を流れていく。

私の言葉を聞いた清十郎が「へえ」と眉を跳ね上げた。

「それは奇遇だな。
だったら──こんなところで立ち話というのも何だし、ついてこい」

言われて、私は躊躇した。

すると清十郎は嫌な笑いを浮かべて背を向けて、

「嫌なら別にいいが。円士郎様の話が聞きたくないか?」

そんなことを言って勝手に歩き出した。