恋口の切りかた

ここのところ四六時中、熱がある時のようにふわふわした感じが続いていて、

一人でいる時も頭の中は円士郎のことばかりで、ぽーっとなって、


奉公人たちにはお加減が悪いのではと心配されて、

とうとう今日は宗助にまでどうかしたのかと訊かれて、慌てて屋敷を抜け出してきてしまった。



今もこうして歩いていると、変な溜息ばかり出てくるし、胸がきゅうっとして、切なくて、


こういうの、恋わずらいって言うのかなあ……。


はあ。

そんなことを思ったら、また溜息が出た。


エンに会いたいな。

屋敷に戻ろうかな。


今日は役宅には行かないって言ってたから、ずっと屋敷にいるはず。

でも……用事があるわけでもないのに、何て言って話しかけたらいいのかわからないし、他の人たちの目もあるし……。


はあ。


何度目かの息を吐いた時、



「留玖」

背中から聞き覚えのある声に呼び止められて、私はぞっとしながら振り返った。

「海野清十郎……!」

人混みの中に、氷のような目をした侍が立っている。


円士郎のことを考えて熱に浮かされているようだった頭が、急に冷えた。


青文が失脚した後、正式に家老になったという若者は、今日は真昼だというのに供も連れず、着流し姿だった。