恋口の切りかた

屋敷に戻ると、母上が待ちかまえていて、留玖の姿を見つけて抱きつかんばかりの勢いで駆け寄ってきた。

「留玖! 良かった……村に行ったと聞いて、心配しましたよ」

留玖が衝撃を受けた様子で、

「ご心配おかけして、申し訳ありません、母上」

と謝った。

「良いのです。よく帰ってきてくれました」

って、母上……留玖が戻ってこないと思ってたのかよ……。

「……ここが、私の家ですから」

留玖が、何とか聞き取れる小さな声で遠慮がちにそう言って、母上は涙を流して喜んだ。

俺もその言葉は素直に嬉しかった。


俺は江戸の親父殿に早馬で書状を送って、
うちの蔵を開放することと、一応、青文が失脚させられて藤岡たちが税の引き上げを強行しやがったこととを伝えておいた。

それから、不安になる。

あいつの部屋には天袋に霊子が住みついてやがるから、大丈夫だとは思うが──

通い妻よろしく、毎日せっせと鬼之介のところと結城家を往復している幽霊女を思い浮かべて、

俺は、やはりあてにはできないと思った。

「留玖」

俺は留玖の部屋に顔を出して、

「寝る前に、俺の部屋に来い」

不思議そうな顔をする留玖にそう告げた。