恋口の切りかた

突然訪ねて行ったにも関わらず、
親切で優しいおじさんは、

「今日はまた気合いの入った格好で」

と微笑むと、

いつものように
長い煙管をぷかりぷかりと吹かしながら
子分という人たちにいろいろ聞いてくれて──


「その御武家のお嬢さんとやらのほうは、あっしらもわかりやせんがね

──ああ、でも拐かし(*)にでもあったンなら、そんな話が入ってくるハズなもンで、
今ンとこ、その心配はご無用でやんす。

で、漣の旦那(だんな)なら、
この先の路地で、さっき暴れてるのを見かけたやつがいるらしいや。

──なに朝からお屋敷じゃ騒動に? そりゃ、ふん捕まえて帰るんでやしょ?

何ならうちの若い衆をつけまさァ」

なんて言ってくれた。


「なァに、おつるぎ様が困ってるとあッちゃァ、あっしらもほうっておけねェや」


──本当に親切な人だ。


平司がボソリと、

「姉上、兄上の悪いところにあまり影響されないようにして下さい」

と言ってきたけど、
……何のことだろう。



(*拐かし:かどわかし。誘拐のこと)