恋口の切りかた


 【剣】

庄屋様の屋敷で、円士郎の口からまるで知らない人のような恐ろしい取引の言葉が飛び出して、

村人から預かった、蜂起の証拠となる血判状を手にして屋敷を後にした円士郎に、


「他の村の人たちをどうするの──?」


私はそう尋ねようとしたけれど、


できなかった。


村の入り口まで戻った円士郎は、震えながら私を抱き締めてきて、

全部、わかった。


彼がどんな思いと覚悟でこんな取引をしたのか。


円士郎は、私のことを大事に思ってくれていて、
だからこそ、私を追い出したこの村のみんなのことを嫌っている。

でも、それなのに、


エンはみんなを止めて、おとうや兄ちゃんたちを助けてくれようとして、


蜂起を止めるために首謀者は磔にして、残りは餓死しても見殺しにするしかない他の村の人たちの命を背負おうとしている。

農民のことなんかって軽く見ないで、ちゃんとその重たさを受け止めてくれようとしている。


私が村に戻って、一人でみんなを止めようとしたから、彼にこんな──


「こんなことさせて……ごめんなさい」


私が謝ったら、


「それは謝るとこじゃねーよ」

円士郎は暗闇の中で私の顔を覗き込んで、ふふっと優しい笑いを漏らした。

「俺だけだったら、きっと何もしようとしなくて、何も見えないままで、何もできなかった。
行動を起こしたお前のおかげで、気づけた。ありがとな」

円士郎は私の頭を撫でて、

「少なくともこれで反乱は防げる」

そう言った彼の腕はもう震えていなかった。