恋口の切りかた

実際にそれを知って、同時に──

俺には、誰かが流す涙を止めたいと思っても、全員を救うことはできないことも知った。


留玖や、この村の者を悲しませないように手を差し伸べても、他の村の誰かを泣かせることになる。


「反乱を起こさせるわけにはいかねえ。でもこの村だけ何とかしても、国内の全ての村までは救えない。
だから──せめて、未然に蜂起を防ぐことしか──」


──俺にはできない。


いや、少し違っていた。


今、すがりつくようにして彼女を抱き締めて、俺の全身を震わせているのは、

村人に他の村の者を売らせて、
そいつらを密告して磔にして、
誰かを悲しませて泣かせることで、

国内で起きるかも知れない蜂起を止めることが「俺にはできる」のだという事実だ。


もう何もできなかった、ただの子供じゃない。

結城家という、権力と財力のあるこの国の御三家に生まれた俺には、こうして誰かの命を救って、誰かの命を犠牲にすることができるのだ。


藤岡のところに、昼間の俺が民やこの国のことを大義に掲げて乗り込んでも、軽くあしらわれるだけだと言われたのも、当然だ。

民や国を憂うということは──こうして命の重責を背負うということだ。

誰かを切り捨てて誰かを救うというこの重圧に、ずっと耐えて政務を行ってきた青文や藤岡に対して、俺が何も言えるわけがない。


理解した。

覆面家老の姿がただ冷酷に映った俺の目は──子供のものだったんだな。