恋口の切りかた

百姓の家を出て、すっかり闇に沈んだ村の道を、無言の留玖の手を引いて馬を繋いである村の入り口まで歩いて、


「なんで、こんな場所に戻ったんだよ馬鹿野郎」


馬を繋いだ木の横で、俺は留玖を抱き締めた。


「エン……」


腕の中で、留玖が俺の名を呼んで、


「これしか──俺には思いつけなかった」


俺は顔の見えない留玖に言った。

抑えていた感情が押し寄せて
声と、彼女を抱き締める腕とが震えた。


自分がやったことが、正しかったのかどうかわからない。


だが──


自分を捨てた村に戻って、
村人たちや家族を救おうと必死になっている留玖の姿を見て、

初めて知った。

留玖のように、彼らを死なせたくないと思う者や、死んで悲しむ者がいる。


きっと留玖の他にも、恋人や、家族や、そういう者がいて、

きっとこの村以外の者たちにも、死ねば悲しむ者がいる。


そうやって人の世はできている。


留玖を悲しませたくないと思うなら、

俺は同じように悲しむ他の者のことも考えなければならないんじゃないのか……?


民とか国とか、俺が口にして青文がどうして怒ったのかわかった。


民や国と口にしながら、俺にはそれが何を示しているのか──苦しんで、悲しむ者の姿を、本当の意味でわかっていなかった。

実際に笑って泣いて生きている人間の存在が何も見えていなかった。