恋口の切りかた

留玖がもし、この年貢高が引き上げられたという話を知ったら──どう思う?

俺は青文から話を聞いて、村の連中など餓死しようが磔になろうが知ったことかと思った。

だが、彼女は──


「円士郎様がお留守だとわかると、行き先も告げずにお一人で再び出かけてしまって……」

「あいつ、まさか──」

一人で、村に行ったのか?

俺は慌てて厩(うまや)に走った。

「円士郎様、こんな刻限にどちらへ!?」

お前まで黙って行く気かよ! と言わんばかりに後ろで叫ぶ奉公人に、

「留玖を連れ戻す! 彼女の村だ」

俺は振り返らずに怒鳴った。


留玖の村までの距離は、大人の足ならば歩いても一刻ほどだろう。

だが、もう日も暮れる。

一刻が惜しくて、俺は遠出の時などに使う自分の馬で屋敷を飛び出した。


あんな奴らに、二度と留玖を会わせたくねえのに……!

幼い頃の留玖の泣き顔が目の前をちらついた。


留玖がまた傷つく姿なんて絶対に見たくない。


「くそ……っ」


気持ちばかりが焦って、往来の通行人を跳ね飛ばしそうになりながら、俺は二度と向かうことはないと思っていた村へと夢中で馬を走らせた。